私は結核病棟に勤務していたことがあります。結核病棟は結核と診断された患者さんが入院するので一般病棟とはいろいろな面で違いがあります。

まず、入院期間の長さ。今は廃止されましたが、私が勤務していた頃は結核予防法があったため一度結核と診断され入院すると最低でも3か月間は退院できませんでした。

自覚症状がなくても痰の検査で2回連続で排菌していないと証明されなければ退院できないのです。なので見た目ではどこが悪いのだろうと思うような元気そうな患者さんがたくさんいました。

また、長期に入院している人の中には20年以上入院している人がいました。

昔は結核というと家族や親せきからも縁を切られるほど忌み嫌われる病気だったので、病院に入院してから全く家族と疎遠になってしまい退院してからも帰る家のない人も少なくありませんでした。

中にはそれまでの人生の半分以上を病院で過ごしてしまった人もいましたし、帰る家がなくなって住民票を病院に移している人もいました。

そういう患者さんは病状が落ち着き排菌もなくなり退院が近づくと退院後の生活にとても強い不安があり、退院しなくても良いように薬を飲まずに隠してしまったりするので薬を確実に飲み込むところまで確認する服薬確認をして対処していました。

待っていてくれる家族もいないし、入院して社会から離れている間に世の中が急速に進歩しているのについていけないのではないかという不安で一杯だったのでしょうね。

そんな患者さんの一人が退院することになりました。長年連絡を取っていなかった妹さんが面倒を見てくれるというのです。

次の週の日曜日に退院するというときに雪がたくさん降りました。結核病棟は病院の建物の最上階にありベランダが付いていました。

もうすぐ退院する予定のその患者さんは元気な患者さんたちと看護師に雪だるまを作ろうと言いだし、皆で大きな雪だるまを作りました。小さい頃今度引き取ってくれる妹さんと二人で雪が降るといつも雪だるまを作っていたそうです。

作っている間中、大丈夫かな、やっていけるかな、と不安を口にする患者さんに私達はきっと大丈夫だから頑張って、と励ましていました。

次の週の日曜日、患者さんは迎えに来た妹さんと退院していきました。雪が降ると、あの日に見た溶け残って小さくなった雪だるまを時々思い出します。