私が随分前に病棟勤務をしていた頃、一度だけ病室でウエディング姿の花嫁さんを見たことがあります。

その方は胃がんの末期の患者さんの娘さんでした。その患者さんは50代半ばの男性でしたが胃がんから脳や骨にまで転移が見られ手術も出来ず日に日に痩せていって誰が見ても死期が近いことが分かりました。

その患者さんには娘さんがいて結婚することは決まっていたのですが患者さんの容体が安定せずなかなか結婚式を挙げることが出来ませんでした。

しかし患者さんがある日「ウエディング姿が見たいから結婚式を挙げてほしい」と娘さんに頼んだそうです。家族で相談して病院の近くの式場を予約して患者さんは式の時間だけ外出して車いすで参列する予定でした。

しかし、どんどん病状は進み数時間の外出も難しくなっていきました。患者さんが式に出られそうにないので家族は結婚式を延期しようとしたのですが、患者さんが自分が出られなくてもどうしても挙げてほしいということで予定通り結婚式を挙げました。

患者さんは式には出席できませんでしたが、お父さんに見せようと何と娘さんが結婚式の後ウエディング姿のまま病室に来てくれたんです。

新郎も親族も一緒に病室に集まり、娘さんの綺麗なウエディング姿を一目見ようと患者さんや看護師も集まってきて患者さんも嬉しそうでした。念願だった娘さんのウエディング姿を見た3日後その患者さんは亡くなりました。

娘さんもお父さんに自分のウエディング姿を見てもらえて親孝行が出来たと喜んでいらっしゃいました。

人が亡くなるのは仕方のないことですが亡くなる前に患者さんの希望を少しでも叶えて挙げられて良かったと思います。

死期が迫っている患者さんには苦痛を取ってあげることも大切ですが、悔いのないように人間らしく最期を迎えられるようにするお手伝いをすることも大切なんだと改めて感じました。

そうすることで患者さんも残された家族も救われるのではないかと思います。病室で見たウエディング姿は今でも忘れることは出来ません。