看護師のマタハラ

「看護師の職場」と言うと、他の業種とは異なり女性が多く働く特殊な環境であるわけですが、出産・産休・育休などに遭遇する機会も必然的に多くなります。女性が多い職場であるからには妊娠などについて理解が深く働きやすいと考えることもできますが、実際は理解がある職場ばかりではないようです。

昨今、よく聞くようになった女性の妊娠出産を理由とした不当な扱いのことをマタニティー・ハラスメント(以下マタハラといいます)と呼びますが、かなり以前から根強く残っているものです。

「出産制限」の事例

過去の事例として顕著なものは、1956年から59年にかけて行われていたある病院の「出産制限」というものがあります。

年間に産休を取得できる期間と人数を限定し、勤務していた看護師間で相談し割当てたられた人員だけが産休を取得することが認められ、それに逸脱した看護師が出産を希望すると中絶をするように迫られたというものがありました。

男女雇用機会均等法に反する事例

看護師ではありませんが、理学療法士の女性が第2子妊娠を理由に負担の軽い業務を希望したところ管理職を解かれた上で降格されたことが男女雇用機会均等法に反すると病院を訴えた裁判がありました。

結果は、1、2審の違法ではないという病院側の判決を覆し、最高裁で女性が逆転勝訴し世間的にも非常にマタハラについて注目された事例です。

母性保護支援措置を受けられない現状

看護師に至っては、日本医療労働組合連合会の調査結果で妊娠中に切迫流産を経験した看護職は2009年に34%、20年前より10%も増加しています。妊娠時の「母性保護支援措置」における夜勤免除が実践されていないことや、時間外勤務目免除や時差通勤、つわり休暇などの取得率が低い傾向にあることが原因と予測されます。

それには、

  • 取得できないような職場環境
  • 妊婦本人が忙しい現場を十分に理解しているが故に「迷惑を掛けたくない」という強い気持ち

などが妊娠を隠して働き続け流産を招いてしまうことも多く、そうならなかったとしてもその後の看護師が慣例を作りにくい悪循環となってしまっているという状態です。

本来、看護師であれば妊婦にとって悪いものや、つわりがひどい者などの体調変化については十分理解しているはずですが、妊娠中に最も悪いとされる人間関係などのストレス、夜勤、長時間勤務、体力仕事など妊娠前と変わらず受け続けており、これが切迫流産の引き金にもなっているようです。

しかし、同じスタッフとして働いていて人員不足で余裕がなかったり、業務が非常に忙しく周囲に気遣うゆとりがないなどの場合、どうしても感情的になり「自分は頑張っているのに…」という気持ちから嫌味を吐いてしまう、また経産婦であったとしても「自分の時はもっと頑張ったのに最近の子は…」とつい口をついて出てしまい、妊婦を苦しめることになってしまうといったことが実はあるのです。

マタハラはどう対策・対処すれば良い?

■マタハラが起こる理由

  • 経営者や相手の理解不足によるもの
  • 妊婦本人も保護される状況であることを理解していない場合
  • 周囲を思いやることができるだけの人員的な余裕がない状況

などが挙げられます。

経営者側の理解・環境づくり

看護師の場合、恐らく人員不足からくる面が強く、それ故に対策をするには経営者の理解と適切な人材の配置、単純に人員を増やすのではなく全員がゆとりをもって勤務することができる「疲れたら我慢せず休める環境」を作ることが必要です。

スタッフ間の密なコミュニケーション

そして、スタッフ間の対策としてはやはりコミュニケーションが重要です。頭では分かっていても、忙しい中で帰る・休むという行為にどうしても感情面で理解ができない看護師も出てきます。感情に働きかけることである為、万人に正解となる具体的な方法はありません。そのため、常日頃から看護師間でのコミュニケーションを良好に保っておくことが予防対策と成りえるでしょう。

妊婦自身の母体保護の理解

妊婦本人自身も理解を深めておくべきです。

しかしながら、図らずもマタハラが起こってしまった場合、法律で守られているという自信を持ち対応してください。

マタハラを受けたという事実を証拠として確保し、信頼できる上司や管轄部署に相談をして改善してもらえるように要求し、改善されるかを待ちます。それでも改善されない場合、労働基準監督署や弁護士相談、都道府県労働委員会の「個別労働紛争の斡旋」を依頼する方法があります。