退院調整看護師という仕事が、これから在宅医療が中心となる日本の医学界で注目を浴びつつあります。退院調整看護師の仕事に興味があるけれども、具体的にどのようなことをするのかよくわからないという人もいるでしょう。

そのような人がいれば、一度、宇都宮宏子さんの話を聞いてみると良いでしょう。彼女はもともと看護師をしていて、在宅ケアの重要性を訴えている人で、退院調整看護師の第一人者と言っても良い人です。

宇都宮宏子さんの略歴

宇都宮宏子さんが長年にわたって、退院支援や退院調整の仕事に取り組んできました。病院に入院している患者を自宅に帰してあげたい、このような気持ちを強く持つようになったきっかけは自分の父親の死だったといいます。

宇都宮さんは、父親をがんで亡くしています。当時がん告知をすることは一般的ではなく、父親は本当に自分の体のことを知らずに最期を迎えてしまいました。

なくなるまでの間長いこと病室のベッドで過ごしていて、最後小さな窓しかない無機質な病室で死を迎えました。その後彼女は「思い通りの最期を父親に全うしてもらうために何か自分にできることがあったのではないか」とのような自問自答を繰り返していました。

宇都宮さんは高松市と京都の山科で訪問看護を12年間にわたって仕事をしました。この時実感したのが、病院から在宅への流れがうまくいっていないことです。

このため、入院患者がなかなか自宅に戻れないという現実を目の当たりにして、病院から在宅医療への移行をスムーズにできるように京大病院で退院調整看護師として10年間仕事をするようになります。

「人は家で生活することが普通」

宇都宮さんが退院調整看護師として活動している根本にあるのが、「人は家で生活することが普通だ」というものです。入院を経験した人はわかるはずですが、もともと病院は生活を送る場所ではありません。

患者は「いずれ治って自宅に戻れる」と思って、厳しい治療やリハビリに耐えてきているところがあります。

宇都宮さんの体験談によると、病院にいるときには看護師などが周りの世話をしてくれるのでどうしても依存的になります。しかしそのような患者が自宅に戻れる・退院できるといわれると、「一家の主」とか「主婦」の表情に戻るといいます。

特に高齢者の方の方がそのような傾向が強いといいます。認知症にかかっている人は状況がわからないからあまり意味はないのでは、と思う人もいるでしょうが表情が変わると宇都宮さんは言います。普通の生活を取り戻すことが、生きる力を生み出すと宇都宮さんが考えています。

宇都宮宏子さんが考える退院調整看護師の役割

入院している患者が退院するにあたって問題になるのは、家族との折り合いです。入院しているときは見舞だけでよかったものが、退院して自宅療養するとなると家族は介護などの面倒を見る必要があります。家族の中には患者を引き取ることに難色を示す場合もあります。

その場合退院調整看護師として宇都宮さんは、「すべて自分たちで介護する必要はない」ということを説明します。在宅医療ではかかりつけ医に定期的に自宅に来てもらう方法もあれば、訪問看護もあります。

また介護が必要な場合でもデイサービスやヘルパーなどのサービスを活用できるので、介護による負担を軽減することはいくらでも可能です。

もう一度家で暮らせるためにはどうすればいいか、これを家族と一緒になって考えることも退院調整看護師の役割だと宇都宮さんは説明します。また住まいに戻るのは自宅に限ったことではなく、特別養護老人ホームやケア付き住宅を見つけて、そこで新しい生活拠点を見つけることもあります。

そもそも病気で完治できるものは少ないです。がんや糖尿病、高血圧症も基本的に人生ずっと付き合っていかないといけない病気です。また病気が治っても後遺症が残る可能性もあります。

そのような人が人生を再構築するにはどうすればいいのか、家族と一緒に考えるのが退院調整看護師の役割と宇都宮さんは考えています。